横浜物語

横浜物語-21

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横浜物語-21

横浜物語-21【観音崎(横須賀市)
横浜物語(悪魔のロマンス)-21
その日の早朝、Jに連絡が入った。

「見慣れない背広が20人ほど山下町を歩います。」
「どこの組か見極めろ。」

「分りました。変な奴らだったら直ぐ押えます。」
「迂闊なことはするな。」
断りなしに、よその連中がJの縄張りを大勢で闊歩するなど考えられなかった。

「どっちに向かっている。」
「山下町通りを山手の方に向っています。」

「気づかれないように追え。」
「分りました。」

「人形の家で曲がって半分は合同庁舎に入りました。残りは近くのマンションの前で屯しています。堅気のようです。つまらない報告を入れて申し訳ありませんでした。」
「待て。そのまま見張れ。」

即座に優一に電話した。
「査察だ。お前のマンションの下にいる。」

「えっ! 逃げる!」
「もう無理だ。堂々としていろ。落ち着いてまずヤバイものを処分するんだ。」

突然外から「客人です。」という配下の声が聞こえた。
「入っても構わないかしら。」
そう言って一人の女性が入ってきた。

見知らぬ女だった。
「誰だ。」
「国税局の査察部の者です。」

「なんだと。」
「林田と申します。」

女がそう名乗った後、二人はしばし視線を交わしたまま無言で対峙した。
(変わった女だ。俺を見て目をそらさない。)

「俺の稼業を知って一人で来たのか?」
「男性より私の方がお会いしやすいかと思って参りました。」

「怖くないのか?」
「女一人に手をかけるような方だとは思っていません。」

「大層な自信だな。ところで国税の査察が何故俺のところに来る。」
「伺っておきたいことがありまして。」

「任意か強制か。令状はあるのか。」
「令状はありません。あなたに対する脱税の容疑ではありませんので。」

「俺が応じると思うのか。」
「要件を話せば応じていただけると思っています。」

「何の件だ。」
「村上優一さんの件です。私は彼が関与した脱税事件の担当者です。あなたと彼との関係について伺いたいと思って参りました。」

「村上は税理士だ。税理士が脱税するわけはないだろう。何を調べてここに来たか知らんが、村上と俺は高校の同級生だ。付き合いはあるが稼業は違う。」
「無駄な時間を使いたくないので、こちらが知っていることをお話します。村上税理士がミラノ旅行社の株を担保に銀行から借りた2億が消えました。それからしばらくしてあなたの口座に1億円の入金があります。」

「それを聞きたいのか。」
「はい。」

「俺の口座の金は稼業の金だ。村上の金とは関係ない。」
「そのお答えは想像していました。ところで本日の査察着手の直後に、ある弁護士から事件に関与するとの連絡がありました。その方はあなたともお付き合いがあるようですが。」

「正直に言う。村上が関わった税務調査の案件で相談を受けた。何か深刻そうな様子だったので弁護士を紹介した。」
「それだけですか。」

「それだけだ。」
「もうひとつ。小野税理士の事務所を村上税理士が引き継ぎました。引き継ぎに際して、一時その弁護士が介在していますが、その辺の事情はご存知ですか。」

「その小野という者が偶然同じ弁護士を通じて事務所を手放したんだろう。詳細は知らない。」
「分かりました。ところで私がこちらに伺った理由が分かりますか。」

「何だ。」
「私が関心を持っていることをお話しに来たのです。今話したこと以上でもなければ以下でもありません。」
(女だが性根の据わった奴だ。優は逃げきれないかも知れない。)

「俺とこんな話をするよりも、捜査の担当者なら村上から直接聞けばいいだろう。」
「村上さんからはいつでも話が聞けます。査察を始めた今日、まずあなたとお会いしたかったのです。」

「何故だ。」
「あなたと村上さんの関わりが事件の根にあるような気がしまして。」

「お前の邪推だ。」
「・・・そうかも知れません。」

「捜査の邪魔をする気はない。好きにしろ。」

解説
ナオミの相続税の脱税について、国税局の査察調査が始まりました。
事件を担当する林田査察官は、調査着手の当日にJと面会します。

・・・To be continued・・・

 

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