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福岡物語-27【青の洞門
福岡物語(居場所を求めて)-27
海老原に対する松尾の追及は厳しかった。

「事務所の現金の出処は。」
「言えません。」

「あんた仮にも税理士でしょうが。きちんと説明しなさい。」
「相手から秘密にしてくれと頼まれた以上、話せません。」

松尾は、突然部屋を出ると、若い職員を伴って戻ってきた。
その職員は、海老原が、かつて仕事を教え何かと面倒を見ていた後輩の秋山だった。

「この男の前で、金庫にあった金の出処を説明できないと言い切って見ろ。」
後輩は、心配そうな眼差しで海老原を見ていた。
「・・・秋山をはずしてくれ。頼む。」

海老原は観念した様子だった。
「丸田です。」

「今朝あんたが電話して、俺が代わるとすぐ切った男か。その丸田が何故そんなに金を持ってるんだ。」
「それは分かりませんが、税理士稼業も楽ではないと話をしたら、貸してくれました。」

「何者だ。市役所を首になってるな。」
「今朝申し上げましたように、大学の同窓生でゼミも一緒でした。市役所で横領して辞めたことは知っていますが、三和物産で具体的に何をしていたかは知りません。」

「本当に借りた金かい。」
「はい。」

「一度に借りたんか。」
「いいえ、三回か四回か、何回かに分けて届けてくれたと記憶しています。」

「三回とか四回とか、そんな回数か。」
「はい。」

「嘘を付け!」
「・・・嘘は付いてません。」

「いいか、あんたの事務所にあった現金の帯封な、日付の違うのが一二もあったぞ。」
「じゃあ、一二回に分けて届けてくれたのかも知れません。」

海老原の声が小さくなった。
「本当に借りたんか。」
海老原は黙した。

「帯封の日付な。どんな日だったか分かるか。」
「いいえ。」

「三和物産に消費税の還付金が振り込まれた日の帯封だ。振込み直後に引き出された現金があんたの事務所にあった。あんた今自分がどういう立場にあるか分かるか。」
「立場と言われても・・。」

「普通に考えれば、不正還付の首謀者か共犯者だろう。」
「それはない。俺は不正にはかかわってない。」

「海老原さん、事実をしゃべる気がないならかまわん。調書も途中だがもう帰れ。」
松尾の言い方に驚いた。
(このまま帰ると、いずれ検事捜査でも行われれば、真っ先に逮捕されてしまいそうだ。多少の手傷は避けられそうもないが、逮捕や刑事罰だけは困る。)

海老原は、松尾に向かって言った。
「正直に申し上げます。事務所にあった金は丸田から貰ったものです。」
「何故丸田が金を呉れるんだ。」

海老原は、自分に都合が良いように事実を作り変えて説明した。
「丸田が事務所に来て、顧問になってくれと依頼され承諾したところ、更に税理士法三三条の二の書面の添付も頼まれました。私は、顧問を依頼されたばかりの段階で、直ぐにそんなこと出来んと答えたところ、どうしても付けてくれとしつこく懇願されました。同窓生のよしみもあって断りきれずに頼みを聞いてやったところ、最初の申告が終わった後、顧問料とは別に現金で三〇〇万持ってきました。この金はなんだと尋ねましたが、後先心配せんで良い金だから黙って受けてくれと言われました。恥ずかしい話ですが、三〇〇万の現金を見た私は欲に負けてしまいました。」

「借りたと言ってたのは嘘だったんか。」
「申し訳ありません。税理士である私が、申告していない収入があるとは言えませんでした。早急に修正申告をします。その納税額に加算税が課されても仕方ないと思っています。」
海老原は神妙な面持ちで話した。

「誰が還付金詐取のスキームを考案したんだ。」
「知りません。私は、丸田から頼まれた申告書の作成と売上伝票の確認をしていただけで、仕入が金のインゴットとは知りませんでした。」

「本当か。」
「はい、丸田が誰と何をしていたのかも全く分かりませんでした。」

「知らなかったと言いたいだけじゃないのか。」
「ここまでの成り行きから疑われてもやむを得ませんが、本当に知りませんでした。丸田に聞いて頂ければお分かりになるはずです。私の携帯を調べてもらっても三和物産に関し、丸田以外の者の登録や通話履歴はないはずです。」

夜半ようやく解放された海老原は、丸田に電話した。
「偉い迷惑だ。国税は俺を共犯と疑っている。」

丸田は、海老原から捜査の状況や質問された内容を聞き取った後、「これ以上迷惑はかけん。あんたは何も知らなかったということで通してくれ。」と言ってくれた。

少しほっとした。
(最後の一線だけは守れそうだ。)

解説
松尾査察官が海老原税理士を国税局で追及している場面です。
松尾の追及を受けた海老原は、丸田から裏金を貰っていたことを認めます。
・・・To be continued・・・

 

 

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