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横浜物語-31【横浜中華街の一室
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横浜物語(悪魔のロマンス)-31
収監が間近に迫った夕方、三人は中華街の老舗に行った。
「料理は前もって頼んでおきました。当分こんな食事は出来ないでしょうから、おいしく戴きましょう。」
蒸鳥と鮑の冷菜、金華豚の太腿の煮込、白ネギを添えたハタの姿蒸し、ふかひれのスープなどが出てきた。

「今だに信じられない。」
「全ては気まぐれな母親がしたことだ。ただし、その気まぐれなしでは俺達はこの世にいない。」

「僕は、純子さんの血を本当に受け継いでいるんだろうか。」
「そうよ。二人とも純子と司朗さんの血を受け継いでいる。」

「でも純司と僕はあまりにも違いすぎる。」
「妹が世間を自由に飛びまわる鳥だったとするわ。そしたら、あなたは奥手で、まだ孵化したばかりの雛鳥なの。」

「孵化?」
「そうよ。私に脱税の話を持ちかけた時、あなたの中の純子が孵化していたの。」

「悪いことを持ちかけた時?」
「そうよ。善と悪は対極だけど表裏でもあるの。悪に染まっちゃいけないけど、悪を知らなければ世間で勝負できないこともあるわ。」

「亡くなった小父さんは大成功したけど、どう考えても悪いこととは無縁だったですよね。」
「悪いことはしてないけど無縁でもないわ。彼はイタリアを相手に仕事をしてたでしょう。純粋無垢のままでは太刀打ちできないこともあるの。相手に騙されたふりをして引っくり返したことはよくあったわ。そしたら相手は言うの。騙すなんて狡いって。夫は笑って言い返した。お前、そんなことを言ったらイタリア中で笑い物になるぞって。日本人に付け入られたイタリア人って言われたら、嘲笑されるに違いないの。」

「そうなんですか。」
「ミラノの支店でホテルから入るキックバックを管理させてた。夫が帳簿を見たら何ヶ月分かあるはずの入金がなかった。みんなシラを切ったから言ったの。ミラノ支店は閉鎖して利権はマフィアに譲るって。誰も信用しなかったけど翌日になって皆驚いた。だって誰もが知ってる有名な幹部が来て仕切りだしたから。」

「それでどうなったんですか。」
「みんな慌てたわ。リベートを返すから解雇しないでくれって本気で言ったの。すると夫はリベートの返金はもういいから、これから神様と帳簿には嘘をつかないって約束させたわ。」

「すごいね。でもマフィアを呼んだんなら、ただじゃ済まなかったでしょう。」
「マフィアは知り合いの役者よ。あとでばれたけど、イタリア人ってそういうウィットが好きなの。その後大過なく過ぎて、今じゃミラノ旅行社の優良支店よ。」

「そうだったんですか。」
「でもね、マフィアの方々とも付き合いもあったの。」

「どんな。」
「コルシカの良いホテルを紹介してもらったり、安全な手配をするためよ。夫は良い旅行をセットするためには、なんでもしたわ。」

「そんな小父さんにはとても見えなかった。」
「家庭では良き父親で敬虔なクリスチャンよ。でも生きて行くためには悪と交わることだってあるわ。」

「あなたもこれから旅立つの。悪に染まって欲しくないけど、悪を知らなければ事業家にはなれないわ。」
純司が言った。
「悪を知らなければヤクザにさえなれない。」

「純司、そんなつもりで言ったんじゃなくてよ。」
「伯母さんに何か言われても気にするわけないだろう。俺が言いたいのは、俺のような稼業であっても善と悪、言い変えれば物事には両面あることが分からない奴は使い物にならないということだ。」

「優一君、今回はあなたの仕掛けは負け。負けを受け入れてこそ次があるわ。」

(小母さん、純司、ありがとう。でも小母さんにはとても償いきれないことをしてしまった。この先小母さん達の負担になるのは堪えられない。どうしたらいいんだろう。)

 解説
ナオミは、負けを受け入れてこそ次があると優一に言います。

・・・To be continued・・・

 

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