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福岡物語-40【門司から関門海峡を臨む
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福岡物語(居場所を求めて)-40
八年が過ぎた。

彼岸も過ぎた九月の末、門司駅からバスに乗り城山霊園前で降りた男女がいた。
一人は五〇年配の男、もう一人は若い女性だった。先に女性の方が小さな墓に花を供えて手を合わせ、男性がその後しばし瞑目して合掌した。

礼子の命日だった。黒木は、昨年まで欠かさずにこの時分一人で詣でていたが、今年は同行者がいた。林田友紀だった。
八年前、友紀は父と一緒に岩佐の裁判を傍聴していた。庸一は、礼子が自殺し龍雄も後を追う原因となった傷害事件が、真実どのようなものであったのか知りたかった。

「明日父さんは、裁判を聞きに行くけど、・・友紀も行くか。」
友紀は思った。
(あの朝突然やってきて家中捜索すると言い、その後、お母ちゃんを何度も呼び出した人。その人が刺されて・・それから母が亡くなった。)

父と一緒に行くことにした。法廷で、それまで落ち着いた様子で証言していた黒木が、岩佐に向かって体から湧き出るような気迫で怒鳴りつけた状況が胸に残った。学校の先生にも他の大人にも、黒木のような男はいなかった。どんな時でも暖かく包み込んでくれる父とも違う存在だった。

黒木の印象は友紀の脳裡から消えなかった。
受験勉強をしていたある日、気づいた。
(あのひと、お母ちゃんに似とる。)
裁判で岩佐と対峙した黒木は、普段は優しいけれど、いざとなると揺るがぬ強さを秘めた母と同じだと思った。

医者を目指して勉強していたが、法学部に志望を変えた。
友紀は、母親譲りの美しい娘だった。外見も普段は物静かだった母に似て、控え目で落ち着いており勉強も出来た。

しかし、母親譲りは外見だけではなかった。友紀は、自分の内に母から引き継いだ熱くて強い何ものかが流れていることを知っていた。それは、若者特有の情熱とか衝動とは別の、自身の奥底に備わった性根とでも言えるものだった。

(うちには、お母ちゃんの血が流れとる。)
母から譲り受けたものを大切にしながら生きて行こうと思ったとき、ふと、黒木の下で仕事をしてみたいと思った。
(あの人と一緒に仕事したら素の私になれるかも知れん。母から受け継いだものを出して生きたい。)

大学卒業後、国税局に入った。
父が、就職祝いに実用的なコーチのバッグをプレゼントしてくれた。
バッグの中に黒い小さなものが入っていた。

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「お父さんこれ・・?」
「使わなくて済めばそれでいい。」

やがて黒木が率いる脱税捜査班の末席査察官となった。
(お母ちゃん死ぬことになった、あの事件やっとった・・黒木さんの下におるんよ。)

黒木は、ぶっきら棒で愛想も悪かった。
先輩たちはしょっちゅう怒鳴られ、職場は毎日張り詰めていた。

解説
礼子が亡くなってから8年後、礼子の墓を詣でた男女がいました。
それは、黒木と礼子の娘の友紀でした。

・・・To be continued・・・

 

 

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