福岡物語

福岡物語-37

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福岡物語-37【東シナ海の夕陽
福岡物語(居場所を求めて)-37
国税局を出た龍雄は、翌朝、雄一を訪ねた。
「気晴らしに海に出たい。」

船は、玄界灘を遠くまで走ったが、助手席の龍雄は何も言わずにずっと海を見ていた。やがて壱岐の港が見えた。
その夜、港の旅館で、二人は今までのことを語り合った。

「お前には迷惑のかけどおしやったな。」
「一緒に仕事さしてもらって感謝してます。これからどうするんですか。」

「まだ分からん。今晩は姉ちゃんの通夜と思って飲んでくれるか。」
「礼子姉さんは、ガキの頃からいつも優しかった。」

雄一は泣いていた。
龍雄は、雄一のグラスに酒を注いでやった。

窓越しに海を見ながらグラスを傾けていた龍雄が言った。
「明日、燃料積んで、親父たちの生まれた方へ行ってくれんか。」

「済州島ですか。250キロはありますから往復は難しいですよ。」
「島影が見えるまででいい。」

「途中までで良いんでしたら行ってみましょう。天気は良さそうですから朝早く出れば午後には島が見えると思います。」
「すまん。」

龍雄は、きれいな布製の袋を見せた。
「姉ちゃん骨になったが、友紀がこれに少し入れてくれた。いつも一緒にってな。」
「いじらしい娘ですね。」

「そうじゃ。・・この骨、済州島に向かって撒くんじゃ。」
「せっかく一緒にって言われたのに、そんなことをしたらいかんでしょう。」

「いや、それでいいんじゃ。」
「薄情やないですか。姉さんの娘が可哀想じゃ。」
「もう言うな。とにかく済州島に向かって行ってくれ。」

燃料を積み直した雄一の船は、波高くしぶきが飛ぶ玄海灘とは打って変って、大きくうねる滑らかな海を進んでいった。
視界は良好だった。前方をトビウオが飛び交い、船の横をイルカの群れが並走しているのが見えた。やがて小さく島影が見え、そのまま進むうちにハルラ山が聳える済州島の輪郭が現れた。

「ここいらでよかろう。」
「分かりました。このあたりが、日本と韓国の境目でしょうかね。」

「海に境目はなかろう。海はどこまでも繫がっとる。」
龍雄はそう言って、操縦席の雄一にウィスキーを入れたグラスを渡した。

藍色の海は、やがて黒く光りだした。
「日本で行き詰まったが、あっちでもよそ者じゃ。」
龍雄が呟いた。

「また頑張ってください。龍雄さんほど腹の座った人はおらんですから。」
「雄一、色々ありがとうな。」

「次の段取り決まったら必ず仲間に入れて下さい。」
「分かった。ちょっと小便じゃ。」

龍雄は、そう言うとグラスを持ったままトイレのある船尾に向かった。
「気を付けてください。」
「分かっとる。」

大きな秋の月が海を照らしていた。
きらめく海を見ていた雄一の脳裏に、綺麗で優しかった礼子が浮かんだ。
子供の頃からのあこがれだった。

兄貴代わりだった龍雄にはとても言えなかったが、ずっと好きだった。
日本人と結婚すると聞いたときは、大切なものを奪われた気持ちになった。
その礼子はもういない。

ふと我に返ると、龍雄が船尾に行ってから大分時間が経っていた。
「おーい、龍雄さん。」
応答がない。

急いで船尾に行ったが姿はなかった。
「龍雄さん!」
雄一のほか船には誰もいなかった。

解説
龍雄は雄一の船で父母の故郷の島が見える場所まで行きます。雄一が礼子の思い出に浸っている間に龍雄は船から消えてしまいます。

・・・To be continued・・・

 

 

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