横浜物語-24【襖絵(京都圓徳院)】
横浜物語(悪魔のロマンス)-24
3か月経った。
その間、ナオミは担当の林田査察官に事実をありのまま供述した。
「ミラノ旅行社にちゃんと訳を話してお願いすれば税金の資金ぐらい工面できたでしょうに、どうして村上さんの誘いに応じたのですか。」
「年寄りの遊びよ。でもこうなった以上きちんと責任はとるわ。」
「深田さんは、いつも礼儀正しくきちんとお話をされておられ、事件のことを別にすれば、私は尊敬できる方だと思っています。そのような方が、ただの遊び心で村上税理士の誘いに乗ったとは思えないのです。」
「人の心は理屈で説明できないこともあるわ。はっきりしているのは、私が優一君の話を受け入れて脱税したことだけよ。それでよろしいんじゃないかしら。」
「未熟な私は、あなたがそのようになされた動機が分からないんです。」
「動機だなんて私にも分からないわ。」
「お話しいただけませんでしょうか。」
「・・・」
「今難しければ、直ぐじゃなくても良いですけど。」
「・・・そうね。もしかしたら、いつか話せるかもしれないわ。」
「もうひとつお伺いしてよろしいですか。」
「はい。」
「馬車道に事務所を構えている安藤さんをご存じですか。」
「えっ。」
「安藤さんと村上さんってどんな間柄なのかしら?」
「何故そんなことを聞くの。」
「深田さんが村上さんの分かり切った誘いに乗ったような感じが、安藤さんからも窺えるんです。」
「どんなふうに?」
「妥協を許さない厳しい組織で生きている彼が、村上さんのペースに合わせて動いているように見えるからです。」
「彼に会ったの?」
「はい、事件の初日に会いに行きました。」
「あなた凄いことするわね。彼、現役の幹部よ。」
「やはりご存じでしたか。」
「嘘は言えないわね。」
「深田さんは、安藤さんや村上さんとは、どのような繋がりなのですか。」
「あなた鋭い子ね。でもその話は今出来ない。」
「何故ですか?」
「もう少し時間が必要なの。林田さん、あなたは頭も良いし人の気持ちも分かる。嫌いじゃないわ。でも御免なさい。今は話せない。」
やがて優一も自供に追い込まれた。査察官から、
「事実を述べたことは評価しますが、あなたの行動は税理士としては到底許されることではありませんね。」
と言われ、絶望的な気持ちになった。
「脱税として刑事告発されるんですか。」
「私からそういうことを申し上げるわけにはいきません。」
「私の行ったことは確かに税理士として恥ずべきことでした。しかしわずかな差で有利な評価方法を使えた納税者を救おうとしたことも事実です。被相続人が苦労して育てた会社の株を競合する会社から買収されるのも避けたかった。そういう事情もあって工作してしまったんです。」
「たとえ善意から始めた行動であったとしても、その結果が脱税ということであれば、責任を取らなくてはなりません。少なくともあなたから話を持ち掛けなければ、深田さんは脱税をしていません。あなたのしたことは重大です。」
「私がしたことについては反省している。しかし深田さんは心優しい真面目な方だ。そういう方を告発するんですか?」
「私達は、あなたや相続人の人格をうんぬんするわけではありません。あくまでも脱税という犯罪について追及するだけです。」
「本来、財産評価は税務行政の世界だと思う。告発して欲しくない。お願いだ。」
「あなたの意見として伺っておきます。」
(なんという違いだろう。スキームに乗ったのを自分の火遊びだったと言い切り、事実を淡々と説明して責任を取ると言う深田さん。一方、専門知識がなければ到底無理な脱税のスキームを組み立てて、そこに深田さんを引きずり込んだこの人は逃げようとするだけ・・・)
解説
ナオミは事実を詳らかに説明し、優一も自供に追い込まれます。
林田査察官は、ナオミに優一やJとの関係を尋ねますが、ナオミは『今は話せない。』と答えます。
・・・To be continued・・・