横浜物語

横浜物語-11

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横浜物語-11【ガールスカウトの像(山下公園)
横浜物語(悪魔のロマンス)-11

ひと月後、優一は事務員の前に立っていた。

「故あって、当事務所の税理士として皆様とご一緒に仕事をさせていただくことになりました。若輩者ですが、皆様とともに頑張りたいと考えておりますのでよろしくお願いします。この機会に退職を望む方がおられましたら、規定通りの退職金をきちんと支給します。また、突然税理士が変わるという困難を乗り越え、このまま頑張っていただける方には、全員10パーセントの昇給をさせていただきます。」

我儘だった小野は職員から好かれておらず、小野が行っていた不正を察知している者さえいた。そのような状況の下で優一の提案は好意的に受け止められ、事務所の継承は支障なく行われたのだった。

小野は荒れた。
「小野ちゃん、どうしたの。」
「なんでもない。」

「呷るような飲み方して体に良くないわ。」
「もう銀座にも、しょっちゅう来れなくなる。」

「何があったの。」
「いいんだ。」

落胆から飲みだしたが、湧きあがる口惜しさを押さえることはできなかった。
(聞いてみれば俺と同じ2代目の若造が後釜に座ったらしい。)

知り合いだったその筋の人間に100万の束を2つ渡して言った。
「首謀者が誰か吐かせて、腕の1本も折ってくれ。」

数日後、優一は見知らぬ二人組に突然囲まれ有無を言わさず車に乗せられた。
一人はナイフを突きつけ、もう一人が運転する車は本牧埠頭の倉庫の裏に到着した。

車に乗ったまま、ナイフを持った男が言った。
「村上優一だな。」
「何のまねだ。」

「聞きたいのはこっちだ。お前みたいな若造が事務所を乗っ取れるはずがない。バックは誰だ。」
「何のことかわからない。」

強引に右腕を捻じられた。
「腕1本折ってやろう。それとも骨ごと砕いてやろうか。」

漸く腕を戻された後、男から、
「ちゃんと話してもらおうか。」
と言われた。

逃れようのない窮地だった。
「Y弁護士から紹介されました。」

「なんだ。そいつは。お前は幾ら払ったんだ。」
「お金は出していません。弁護士から事務所がバラバラにならないように運営して欲しいと頼まれました。僕は雇われているだけです。」

「信用できんな。小野を追い詰めた奴は誰だ。」
「知りません。」
「もっと痛い目に会いたいようだな。」

突然、四方からライトが照らされた。
4台の車両が優一の乗った車両を取り囲んでいた。
「ヤバイ、サツか。」

そのうちの一台の車から男が出てきて、二人に降りるように指示した。
Jだった。
Jは二人としばらく話をしていたが、やがて二人を解放した。

小野は思わぬ報告を受けた。
「お前とはこれまでだ。ついては500万出せ。」
「話が違うじゃあないか。」
「相手が違いすぎる。500万は俺の懐じゃない。詫び賃だ。お前もただじゃすまねぇ。」

Jから電話を受けた小野は茫然としていた。
「損害賠償は、お前に渡した2億と腕一本だ。」
小野は震えた。
「許してください。」

「浅はかな動きをした罰だ。腕は勘弁してやるから2億持ってこい。」
「もう2億もないです。減ってしまった。」

「どうするつもりだ。」
「1億で勘弁してください。」

「良いだろう。ただし残りの1億は、お前に対する貸付金だ。公正証書にする。」
「そんなこといっても返せません。」

「お前がおとなしくしている限り要求しない。不埒なことをしたら、すぐ取り立てに入る。利率は年利15パーセント、遅延損害金は20パーセントだ。」

1億入ったバッグが優一の前にあった。
「詫び賃だ。」
「もともと払うつもりだったお金だ。戻してくれなくていいよ。」

「俺の金じゃない。」
「あの事務所が手に入ったのは君が動いてくれたからだ。」

「大して手間はかかっていない。それに使った金はお前を痛めつけた奴らから出してもらった。」
「じゃあ君に投資する。1億上納すれば随分動きやすくなるんだろう。」

「稼業への気遣いは無用だがそこまで言うなら預かっておく。しかしお前が要るときはいつでも返すぜ。」

解説
序盤の主な登場人物は、ナオミ (遺産相続人)、優一(税理士)、J ( 優一の友人)です。
Jはヤクザの世界で頭角を現し、優一は大学を出て税理士になりますが二人の関係は途絶えることなく続いています。

物語の序盤は今回で終了です。
次回から、物語の中核となる事件の話へと進みます。

・・・To be continued・・・

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