横浜物語

横浜物語-10

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横浜物語-10【眺望(南魚沼)
横浜物語(悪魔のロマンス)-10

相手は悠々と煙草を吸い、港を眺めていた。

「その胸ポケットのペンをこっちによこしてもらおうか。」
「なんだって?」

「二人きりの話に録音機は必要ない。」
「・・・あんたは誰だ。」

「質問できる立場か。話がついたら教えてやる。」
「あんたが何者か知らないが、私にも色々友達がいる。」

「どんな友人かしらんが、俺は大抵の人間と直ぐ仲良くなれる。」
取り付くしまがなかった。

「この部屋を出て弁護士と一緒に帰るか、俺と話をつけるか今決めてもらおう。」
「うちの事務所は1年で6000万以上稼ぐ。せめて3億はないと納得できない。」

「その稼ぎが水の泡になって刑事被告人になるか、金を貰って再起を図るかだ。」
「たった1億じゃ納得できない。」

「うんと言わなくても、役所に通報し、直ぐに弁護士を使って事務員を味方につけるさ。そうすりゃ顧問先の大半を散らさなくてすむだろう。あんた事務員の受けは悪いらしいな。」
「1億貰っても、税金を払えば半分しか残らない。」

そう答えた小野を睨むJの眼光が鋭くなった。
「いいか、よく聞け。」

一段と声が低くなった。
小野の額に冷や汗が流れ、唾液も出ない。

「事務所の降り賃2億だ。今この場で現金で支払う。金の受け渡しは俺とお前しか知らない。嫌ならこのまま帰れ。」

2億の現金と聞いて心が動いた。
「・・・分かった。」

「それじゃ、今から手続きを始める。まず、弁護士に連絡して帰って貰え。」
小野がそのとおりにすると、男は隣の部屋から大型のトランクを持ってきた。

「中を改めろ。」
日銀の帯封が付いた1000万の束が20個あった。
「今からこのトランクはお前のものだ。このことは俺とお前しか知らない。」

続いて書面を見せられた。その書面は、要旨、「一身上の都合により、税理士事務所の経営が困難となったので、事務所をY弁護士に引き受けてもらいたい。」とする依頼の書面であった。

「印鑑は持ってない。」
「かまわない。サインで良い。」

小野が署名した後、男は録音機を取り出した。
「小野さん、録音っていうのは堂々とするもんだ。これを読みあげてくれ。」

小野が怪訝な顔をすると、
「これが実印替わりだ。」
と言われて書面を示された。

「私は、赤字の広告会社を使って、水増しした広告費を振り込ませる方法により、A病院、B病院、C病院ほか多数の病院の脱税に加担しました。このような不正を行った私は、今後事務所を経営する資格はなく、今月末をもって事務所の経営をY弁護士に委ねることを約束します。」

あっという間の出来事だった。
(終わった。もうだめだ。)
相手の名前を聞く余裕もなかった。

小野がトランクを持って部屋を出た後、Jは電話をかけた。
「今終わった。奴の関内の事務所はお前のものだ。」

税理士法では、ひとりの税理士はひとつの事務所しか持てない。
優一は、父から受け継いだ事務所を税理士試験に合格したばかりの若い職員の名義に変更し、関内の事務所を優一の事務所として登録した。

解説
序盤の主な登場人物は、ナオミ (遺産相続人)、優一(税理士)、J ( 優一の友人)です。
Jはヤクザの世界で頭角を現し、優一は大学を出て税理士になりますが二人の関係は途絶えることなく続いています。

優一の願いを引き受けたJは、豊富な顧客を持つ税理士事務所を手中にします。

・・・To be continued・・・

 

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