福岡物語-8【小倉城】
福岡物語(居場所を求めて)-8
黒木が月曜出勤すると、険しい表情をした小百合から話があると言われた。
(温泉に連れていかなかった件で怒っとるんか。面倒な奴やのう。)
「お話があります。」
「なんだ。」
「今度結婚します。相手は総務部の古城君です。」
「なんだと。」
「式の日取りはこれからですが、よろしくお願いします。」
「それは構わんが、多田隈さんには言ったか。」
「多田隈さんに仲人をお願いしようと思ってますが、まずは黒木さんにお話してからと思いまして。」
「分かった。しかしお前が古城とのう。」
古城は爽やかな好青年である。仕事もでき周囲の評判も良い。
「古城さんから申し込まれました。」
(小百合の良さを見抜いたか。古城も見かけだけの男やなさそうやな。)
「それは良かった。お前結婚したら脱税の捜査班やなくて、もっと楽なポストを希望するやろ。」
「いいえ、仕事はこのまま続けます。」
「・・・」
唖然とした黒木をそのままにして、小百合は自席に戻っていった。
(多田隈さんが言ったように、おなごが捜査班でも普通に働く時代になるかも知れん。しかし着手件数が減るわけでもなし、先が思いやられるわい。)
水曜日、黒木は取調室にいた。
相手は、ようやく聴取に応じた林田礼子という女性だった。
「インゴット、どこに持ち込んで誰に売ったか説明してもらえるかな。」
「免税店で旅行者に売ったと聞いています。」
「インゴットは免税店では売れんぜ。」
「弟かその友達がどこかで土産品に加工したと聞いています。」
「加工した工場は何処?」
「分りません。弟に聞いてください。」
「会社の社長として正しい説明をして欲しい。」
「私は、弟に頼まれて社長になっただけで、実際のことはよく分かりません。」
「弟って高山龍雄さん?」
「私の弟は龍雄ひとりです。」
黒木は、礼子を真っ直ぐ見つめた。
「龍雄さんがあんたを防波堤にして逃げようとしても許されんぜ。」
刻印を見れば即座に市況価格で現金に換えられるゴールドバーを、半端な金製品に作り変えることは到底考えられなかった。
黒木の経験上、嘘をつく相手は目線がわずかでも左右に揺れるものだが、礼子は、黒木を正視したまま、動じる気配はなかった。
解説
これまでの登場人物は、多田隈(脱税捜査班のリーダー)や黒木(脱税事件の担当者)でしたが、これからは、捜査班と対峙する龍雄と礼子の物語となります。この二人の物語には悲しい歴史が込められています。
・・・To be continued・・・