福岡物語

福岡物語-47

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福岡物語-47【鶴見岳
福岡物語(居場所を求めて)-47
質問調査は、通常チーフが質問してサブが録取する。
しかし、この場合の質問者はどう考えても友紀だった。

書き取り用の用紙を手にした友紀に小百合が言った。
「私が質問と応答を全部書き上げるから、友紀、あなたが質問者よ。」
「小百合さんありがとう。」

友紀の質問と追及、それに対する永山の答弁を小百合が書き上げていき、臨場感あふれた稀にみる質問顛末書となった。
「あなたは?」
「永山将司。」

「生年月日、本籍、住所、職業を述べてください。」
「昭和四五年三月五日、本籍は直方市・・、住所福岡市中央区大濠・・、職業は風俗店の経営です。」

「有限会社那珂川興業を知っていますか?」
「私が経営する会社です。」

「あなたは社長ではないが?」
「商売がソープランドなので万一の摘発に備え、マネージャーを社長にした。」

「あなたが経営してるという根拠は?」
「事業資金は私が出し、事業や売上の報告を受けている。」

「儲けた金は誰のもの?」
「俺の金だ。」

「本日の調査に思い当たりは?」
「ある。」

「何故?」
「那珂川興業の申告は正しくない。」

「いかほど?」
「毎年一億位売上を抜いて申告した。」

「抜いた金額はどうしたら確認できるの?」
「俺のマンションに正しい売上報告書があるはずだ。それと申告した売上と比べれば分かる。」

「売上報告書は誰が作るの?」
「マネージャーの本田。」

「本田さんが最初に確認する売上の原始記録は何?」
「ソープ嬢のリスト表。」

「リスト表って何?」
「個室ごとの割り当て表だ。これを見ればどの女がいくら稼いだか分かる。」

「リスト表はどこにあるの?」
「おそらく店、マネージャーが持っているはずだ。」

「人件費や諸経費は正しいの?」
「経費は全部計上した。ただし、・・・」
永山が口ごもった。

「ただし何?」
「・・会に渡したみかじめ料は上げてない。裏で出した。」

「いくらなの?」
「月一〇〇万。頼むから相手に俺が話したと言わないでくれ。」

「月一〇〇万の証拠は?」
「俺の手帳に書いてある。」

「あなたの手帳はまだ見てないけど?」
永山は一瞬苦い顔をしたが、
「ここにある。」と言って尻ポケットから手帳を出した。

「着衣令状を持ってこなかったのは手落ちだったな。」
離れて聞いていた伊保がポツリと言った。

友紀は手帳を素早く眺めながら聞いた。
「この手帳に、月末に○会一〇〇って書いてあるのがそうなの?」
「そうです。」

「儲けたお金はどうしたの?」
「さっき書いた預金口座に約三億、家の現金や家財で約一億です。」

「それじゃ少ないわ。」
「あとは遊興費です。」

「遊興って何?」
「競艇とか競輪です。」

「出まかせ言うと、どこでどういう買い方をしたかきっちり聞くわ。賭博専門の捜査官もいるのよ。」
「本当は月幾ら位?」
「せいぜい四~五〇万です。」

「自宅の金庫に会った手形を説明してちょうだい。」
「○会のフロント企業への貸付金です。」

「元金と金利は?」
「・・・」

「聞いてるのよ。」
「・・・」

「黙して語らずになったわね。しゃべる気があるのかないのかはっきりし!」
「・・今貸してるのは五〇〇〇万だ。」

「金利は?」
「月三分。」

「月利三%だと単純計算でも年利三六%。あなたがたのルールだともっと高いんでしょう。担保は取ってるの。」
「不動産担保がある。ただし一番抵当ではないので、貸金に見合うほどではない。」

「じゃあ何故貸したの?」
「金利が良いので次第に増えた。それに奴らとは持ちつ持たれつだ。」

「実際の貸借メモは?」
「ない。」

「嘘でしょう。どこにあるの?」
友紀は、永山の目を正視した。
「・・・本当にない。残すとヤバイから作らなかった。」

そういう視線がわずかに横に流れた。
(黒木さんのいうとおりじゃ。こいつ、嘘ついとる。)
「嘘を付くな! 嘘じゃと顔に書いとる!」
永山の顔は蒼ざめ、額からは汗が噴き出ていた。

「分かった。」
そう言ったのは、伊保だった。

「おじさんはいまにくる。そうだな。」
「・・・すいません。」

「単位は?」
永山の唇は渇き、唾を飲む音が聞こえた。
「万です。」

そう答えた永山は呻き声をあげた。
「3億5千、それで全部じゃ。」

「どういうことなの?」
小百合が聞いた。

息を切らして床を向いた永山に代わって、伊保が答えた。
「遊女屋の符牒だよ。客待ちする遊女の心境を符牒にしてるんだ。『おじさんはいまにくる』を〇から九の数字に当てはめとる。」

(さすがは伊保さんだわ。)
「全部で大体七億五千万か。とりあえず辻褄が合いそうね。」

「貸金の担保をちゃんと言いなさい。」
「仕方ない。一番抵当の会社は俺のダミーだ。」

「あなたのダミーという証拠は?」
「休眠会社を買った。実印は俺のマンションの寝室にあったはずだ。」

「わかったわ。」
「もう勘弁してくれ。」

「永山さん、本当の質問調査はこれからよ。」
「抜いた金と儲けをどうしたか話したはずだ。今更何を聞く?」

解説
友紀の永山に対する質問調査の状況が描かれています。小百合が質問・応答の記録を作成していますが、この調書の正式な名称は質問てん末書と言い、最終的に被質問者に書面を示した上で読み聞かせて追加・訂正事項の有無を確認の上署名・押印してもらいます。

・・・To be continued・・・

 

 

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