福岡物語

福岡物語-46

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福岡物語-46ANAポケモンジェット(羽田空港)
福岡物語(居場所を求めて)-46
男は、
「姉ちゃん達、福岡より東京の方が稼げるぞ。ちょっと商売の手ほどきをしてやろう。」
と言った。

男が友紀の正面に立った。
友紀はバッグを手にしたまま、緊張で固まっているように見えた。

(この娘だけは絶対守らなきゃ!)
友紀の前に立とうとした小百合を男は突き飛ばした。

「お前はあとから可愛がってやる。」
突き飛ばされた小百合が再度立ちふさがろうとしたが、腹を蹴られて突っ伏した。
「友紀!」

男が、友紀に手をかけようとした瞬間、突然悶絶して倒れた。
「公務執行妨害、脅迫、暴行、たった五分間でよくもこれだけやってくれたわねえ。この男を部屋から出さずに笑って見とった永山、お前も共犯じゃ。」

「なんだと。」
「私の方は急迫不正の正当防衛。」

友紀の手には、黒い小さなものが握られていた。
就職する時父が買ってくれたスタンガンだった。

「一部始終は、録音データとして証拠化済みよ。」
「俺は何もやっとらん。」

「お前達を刑務所に入れるだけの証拠は十分ある。まもなく警察も来る。」
小百合は唖然とした。

(友紀に救われた。とんでもない娘だ。)
友紀は、入室後の不穏な情勢を悟ると即座に松尾に空メールを送信していた。

空メールは、松尾と約束した急迫不正の侵害の場合の連絡手段であり、直後に松尾から警察官を向かわせたとの情報を受信していた。怒りに上気しながら永山を睨んだ友紀の視線は凄まじかった。

「おい、こんなことしてどう始末をつけるんじゃ。こいつはお前の手下か、仲間か!」
「浅草の同業者だ。」
永山の額に汗が滲んだ。

「女を舐めたらいかん。」
ナイフで切り付けるような鋭い言い方だった。

「成り行きでこうなっただけじゃ。悪かった。」
「うちも福岡の女じゃ。本気で詫びる気があるんなら考えんでもない。」

「どうしたら良い?」
「金じゃ。」
「いくら払えば良い。」

ピンク色に上気した友紀の表情が少し優しげになった。
「全部じゃ。」

「えっ。」
「警察が来る前に財産を全部吐け。」

「全部やと?」
「捜索で財産は粗方分かっとる。嘘を付いたら許さん。」

友紀は松尾と別れてマンションから出る際、松尾に頼んでいた。
「重要な証拠や財産が分かったら私にメールしていただけますか。」
「分かった。チーフの小百合は本部との応答で忙しくなろうから、本部と別ラインで俺からお前に情報を送る。それと万一の場合は躊躇せずに空メールだ。分かっとるな。」

渋る永山に友紀は静かに言った。
「喋る気がないなら構わん。ただし黙秘しようが否認しようがお前を脱税で持ち込む。暴行や公務執行妨害の共犯もつけてな。」「分かった。」

永山は、友紀から渡された紙面に財産の内訳を書いた。
捜査で把握済みの金融機関が大半だったが、未把握の銀行口座もあった。

「これで全部か?」
「そうです。」

「足らんわ。」
「これで全部や。嘘はついとらん。」

「家の天袋にあった現金三〇〇〇万入っとらんけどそんなのは良い。中洲のヤクザに貸しとる金はどうした。」
松尾からのメールで、中洲のフロント企業が発行した手形を金庫内で所持していたことが分かっていた。
「それは言えん。喋ったら中洲で商売できんようになる。」

「自分だけは可愛いんか。」
「俺も色々と金がいるんじゃ。」

「小百合、友紀!」
伊保の声がして、伊保と警官が一緒に部屋に入って来た。

小百合は泣きそうになった。
「伊保さん、友紀が!」
「友紀がどうした!」
「凄いの。」

事情聴取が済んだ警官は、小百合と友紀にこう言った。
「本来なら、今からあなた方から被害調書を取らなくてはならないのですが、来署は可能ですか。」
小百合は、二人が本日着手した脱税被疑事件の担当者であることを伝え、被害調書については明日の対応とさせてもらいたいと頼んだ。

男を拘引して部屋を出る際、警察官は小百合達を振り向いて、
「そっちの男は本当に無関係ですか。」と聞いた。
永山が懇願する表情で友紀を見た。
「多分・・無関係よ。それに私たちはこの方から色々とお話を伺わなければなりません。なにか思い出したら明日お話しますわ。」

「永山さん、腹をくくって貸した金と毎月上納する金を分けて教えてちょうだい。」
「それと令状はないけど、あなたの鞄見せてもらうわ。いいわね。」
「分かった。」

「鞄は俺が見る。本部との交通整理も俺がするから、小百合と友紀は質問調査を始めなさい。」
伊保が二人にそう言った。

解説
アメリカなどの脱税査察官は拳銃を所持して捜索に入りますが、日本の国税査察官は武器を所持していません。そこで普段から警察との連携を密にし、脱税捜査中に公務執行妨害などの行為が発生した場合には、事件本部を通じて所轄の警察署と連絡を取り、査察官の安全確保や事件への対応に当たっていただきます。また捜索等の結果、拳銃や覚醒剤等が発見された場合は、即座に警察署と連絡を取り、すみやかに捜査や尋問手続に入ってもらうとともに、拳銃等の発見の状況についての警察官の調書作成に現場の査察官も積極的に応じることとされています。

・・・To be continued・・・

 

 

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