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福岡物語-42

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福岡物語-42

福岡物語-42【中洲 (福岡市博多区)
福岡物語(居場所を求めて)-42
内偵班の近田が黒木を呼んだ。
「今月末一件、引き継ぎしたいのがあるんや。」
「どんな事件だ。」

「ソープランドだ。個人事業やなくて会社経営でやっとるから法人税の脱税だ。」
「スジは?」

「事件としては悪くない。ただし実質経営者はヤクザ絡みだ。俺が言うのもなんだが、松尾か伊保あたりを担当者にせんとうまく進まんやろう。」
「そうか。」

黒木は、近田から渡された内偵案件の報告書を読んだ。
近田達が内偵した相手は、博多の中洲にある大型の風俗店舗でその店のマネージャーが名目上の代表者となっていたが、事実上の経営者は大濠公園近くの高級マンションに住む永山将司という男だとのことであった。

水道代や光熱費の金額に比べて売上が少なく、店外からの客数調査と潜入調査を実施して売上を推計したところ、売上の半分を抜いて申告していると推測された。更に関係者の行動を調べたところ、名義上の代表者とされているマネージャーが、週に二、三回ジュラルミンのトランクを持って永山のマンションを訪ねており、そこで営業報告や除外資金の授受を行っているものと想定された。

(その永山という男を捕捉して、タマリを把握したら決着は早くつくだろうな。)
最初はそう思ったが、報告書を読み進めると、そう簡単ではなさそうだと分かった。
(近田の言うとおりだ。この男は人脈がややこしい。)

(注)「タマリ」とは、査察官の隠語で隠匿した資金のことです。

永山はベントレーを二台所有し、時折ゴルフに出かけていたが、ゴルフ場で永山とラウンドした男達の車両はいずれも白いベンツで、車両ナンバーを追跡したところ、暴力団関係者であると判明した。
(最悪の場合永山もダミーで、本当のオーナーが別にいるかも知れん。もしそうだったら厄介だ。)

近田に聞いてみた。
「永山の奥に本物が潜んでおりゃせんか?」
「確証はないが、俺は永山の実質経営と思っとる。中洲界隈で永山はそれなりに知られとるようだし、ヤクザとゴルフするときも堂々としとる。ヤクザとは持ちつ持たれつやないかな。」

「そうかも知れん。しかしそれはそれで捜査は厄介だ。ダミーやなくとも売上の一部をヤクザに上納したり、あるいは貸付しとったら証拠固めが面倒だ。」
「そうだろうな。すまんが担当者にはしっかりした奴をあててくれ。」

内偵一筋でひたすら汗をかいて事件を作ってきた近田と捜査班を背負って事件を処理してきた黒木は、口には出さないが内心では互いの仕事ぶりを認めあっていた。
やがて、内偵が終了し、事件着手が正式に決まった。

「担当は誰にした。」
「小百合と友紀にする。」

「おい、怒るぞ。俺の部下が必死で内偵した案件をおなご二人にやらすのか。」
「そうだ。」

「難しいのは分かっとろうが。女に永山は無理だ。」
「いや、そう決めた。引き受けた以上きちんと刑事告発する。」

「本人には言ったんか。」
「これからだ。」

「考え直せ。」
「担当者を決めるのは俺だ。お前の心配は分かるがもうこれ以上言うな。内偵してくれた連中には、俺が責任持って告発させるから心配するなと言ってくれ。」

近田は溜息を付いた。
(女二人だけの担当やら前代未聞だ。しかし言い出したら聞かん男だ。)

内偵班から事件を引受けた後、黒木は捜査班を集めて言った。
「担当は、チーフが小百合でサブが友紀だ。」
一同唖然として声が出なかった。

一番驚いたのは、当の女性二人だった。
二人は捜査班の一員として、捜索時には代表者の妻や愛人の着衣を調べたり、彼女達に対する質問調査を行うことはあった。
しかし担当者になったことは、捜査班に来てさほど間もない友紀はともかく小百合でさえ一度もなかった。育児中の小百合に対する黒木の配慮で、平日は九時から五時までの勤務だったからだ。

査察の捜査は、事件ごとに通常二名から三名の担当者を決める。
男性職員の大半は何らかの事件の担当者となっており、事件着手日から数日は、全員でその事件の捜索や質問調査等を行うが、一段落すれば自分の担当する事件に戻って、被疑者を取調べ、収集した証拠を分析・検討し、刑事告発の際には担当者自らの署名による告発文を作成する。

当然責任も重いし、否認事件ともなれば重圧がのしかかる。
女性が事件担当者になったケースは、全国的には例はあるが、担当者が二人とも女性という組み合わせは皆無だった。

「女だけ二人ちゅうのは流石に無理やないですか。」
松尾が言った。
小百合も黙っている。

「松尾、多田隈さんが最後に言ったことを忘れたんか。おなごが仕事できる領域を作れって言うとったろう。小百合も友紀も捜査班の一員だ。二人に旗を持たせて働かせてやれ。」
「私は構わんですけど、内偵した連中が四の五の言うでしょうね。」

「初物に障害は付きものだ。松尾は俺の補佐もあり手があかんやろうから、伊保、お前が二人を応援しちゃってくれ。」
「それは構わんですが。」

「いいか、あくまでも応援だ。事件は二人にやらせろ。」
「分かりました。」

解説
黒木は、内偵班から上がってきたヤクザがらみの事件担当者に小百合と友紀の二人を指名します。

・・・To be continued・・・

 

 

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