福岡物語-32【ふっくらとした鰻の蒲焼】
福岡物語(居場所を求めて)-32
翌日、国税局に出頭した龍雄は、黒木に取引の実体を話した。
ただし、崔の名前は出さず、岩佐と丸田と雄一は手下と説明した。
「・・・だから免税で売ったのは嘘や。全ての責任は俺にある。」
「還付金はどこにある?」
「無い。」
「ないはずはなかろう。」
「なんと言われても無い。」
「日本か、・・・それとも韓国か?」
「なんとも言えん。」
「体で払う気か。」
「・・・」
「なめたらいかん。必ず探し出す。今直ぐ分からんでも、表に出して使ったら俺は分かるぜ。」
「とにかく俺は出てきた。もう姉ちゃんを呼ぶな。」
「それは追い詰められたからやろう。」
「逮捕するんか。」
「俺に逮捕権はない。ただし面と向かって俺に嘘をつく方が高くつくぞ。」
「脅しか。」
「いいや。その通りのことを言ったまでだ。どうのこうの言ってもあんたと岩佐、丸田の三人は一緒の仲間じゃ。そんなかで、丸田の知恵、度胸の岩佐、そして頭があんたやろう。」
「適当なことを言うなよ。」
「俺もプロだ。見立てが間違っていたら査察を舐めてもいいが、図星だったら腹を据えておけ。」
岩佐と丸田が、中州のうなぎ屋で龍雄を待っていた。
「龍っちゃん、お疲れさん。」
「俺が主犯だと言っておいた。悪いが二人とも俺の手下ということにした。」
岩佐が心配げに尋ねた。
「反応はどうやった?」
「あの黒木ちゅうのは鋭いな。見透かしとる。金はないと言ったが、諦める気はなさそうだ。体で払うつもりでも、一生張り付いてやると言われた。」
「弱ったな。」
「役人にしては根性ある。腹も座っとるな。」
「そんなに手ごわいか。」
「刑務所で一緒だったら仲良くなったかもしらん。あんな奴は滅多におらんな。」
二人の話を聞いていた丸田が言った。
「体で払うか、体と金を出すかですね。私も捕まる覚悟は出来ていますが、三年間頑張って溜めた金は残したいです。」
龍雄が、話題を変えた。
「この白焼きうまいな。博多じゃここが一番らしい。そもそも俺たちの仕事はマルちゃんのウナギの話からだったもんな。」
と言うと、岩佐も、
「ウナギをヒントにしたヤマで追及くらって、うなぎ屋か。」
と軽口をたたいた。
帰り際、龍雄が、
「気を付けて帰ろう。かったるいけどバラバラに出て車に乗ろう。」
と言うと、岩佐が、
「いずれにせよその黒木ちゅうのはやっかいじゃのう。」
と独り呟いた。眼が細く据わっていた。
解説
龍雄は国税局に出頭し調査に応じます。還付金を隠したままで事件を終わらせたい龍雄ですが、黒木が追及の手を緩める気配は感じられません。
・・・To be continued・・・