福岡物語-20【九重連山の麓でランチ】
福岡物語(居場所を求めて)-20
3年経った。
龍雄達は純益で10億以上稼ぎ、大部分は、崔が下関で日本人に経営させているホテルの一室を借り受け、そこに設置した大型の耐火金庫に保管した。溜めた金はほとんど使わないようにし、いつも周囲に気を配って慎重に行動した。
取引は順調で、危険な兆候は窺えなかった。
龍雄達は骨休みも必要と考え、崔に断って一週間取引を休み、済州島に行った。
礼子も連れて行った。
かつて祖父母が住んでいたらしい石造りの小さな家から遠くないところに、先祖の墓があることを知った。
墓からは海が一望できた。
(この海の向うは日本じゃ。俺はいったいどっちなんじゃろう。)
昨夜宿泊したホテルで、父母の故郷はこの島だと、フロントマスターに打ち明けたが、愛想笑いをされただけだった。その男は、日本語しか話せない龍雄を、明らかに同郷者と見ていなかった。
日本ではなかった虚しさを感じた。
(親父やお袋があれほど帰りたがったこの島は、日本で育ったこの俺を受け入れてくれそうにない。)
(ここではよそ者だし、住んでる日本からは金を取って生きとる。)
やがて暗くなり、海の彼方に船の灯りがかすかに見えた。
ホテルのラウンジで礼子に、
「なんか空しうなった。」
と小さく呟いた。
礼子はしばらく無言だったが、やがて、
「龍雄、しょうもない気持ちになったらいけんよ。以前母ちゃんが言ったように、うちらは日本で生きていくしかないんや。日本も韓国も優しくなかったけん、今だけ無理しとると考えればいいやないの。いいかげん稼いだら、真っ当な商売しぃね。」
龍雄は、礼子に、ことさら取引の話をしたことはなかったが、礼子は弟達が凡そどのようなことをしているのか、承知している様子だった。
「姉ちゃんの言うとおりやな。」
「そうや。あんたがしゃんとせんでどうするね。岩佐さんも言っとった。あんたがいるけん、やる気になったって。最初は、丸田さん、何もしゃべらんし、岩佐さんも怖そうだったから心配したけど、みんな龍ちゃん好いとるし、気心しれて良い仲間やないの。」
「そのとおりじゃ。」
「この仕事やめたら、きれいにお金分けてもよし、賛成するならみんなで新しく商売やるもよし。龍雄、元気出し。」
「姉ちゃん、もう少ししたらこの仕事は止める。そしたら3人で真っ当に再スタートじゃ。」
解説
龍雄達は3年で10億円以上を手にし、礼子も誘って父母の故郷である済州島に行きます。
龍雄は、ホテルの人間に父母の故郷はこの島だと告げますが、相手は愛想笑いをするだけで同郷者として受け入れてくれそうにもありません。気落ちする龍雄を礼子が励まします。
ここまでは、龍雄達が行った事件について書いてきました。次回から国税局のマルサが動き出します。
・・・To be continued・・・