福岡物語

福岡物語-16

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福岡物語-16【小倉城庭園
福岡物語(居場所を求めて)-16

翌日の懲役作業中、「一七号高山龍雄」と甲高い声がした。
看守が、形式ぶって番号を付けて称呼するということは、面会人が来たと知らせるようなものだった。

毎月一度は必ず来る姉の礼子だろうと思った。
看守に付き添われて面会室に行くと、礼子と一緒に見知らぬ中年の男がいた。
「この方、龍雄が釈放されたら雇ってくれるんやって。どうしても会いたいっていうので一緒に来たんやけど。」

男は、龍雄に向かって、
「下関でホテル事業やっとる金山です。」と挨拶した。
知らない男だったが、崔の配下の者だと直感した。

刑務所の面会は、弁護士か親族以外は原則不可能であるが、釈放後に受刑者を雇用する意向があるなど、受刑者の更生に役立つと認められる者の面会は許されていた。

男は、小声で、
「あんたの責任じゃなかった。」
と言った。

麻取の摘発は、龍雄の責任ではなかったとわざわざ言いに来たのだった。
詳しく聞きたかったが、看守が近くにいる。

「分かりました。」
龍雄は、小さく応えた。

数日後、雑談を装って丸田から話の続きを聞いた。
岩佐が、
「マルサゆうのが来て、証拠が挙がったらぶち込まれるっちゅうことやったな。」
と切り出すと、

丸田は、
「そのマルサが厄介なので、稼ぐだけ稼いで三年位でストップするんです。やつらは、時間をかけて内偵するので、商売始めてすぐには来ません。運悪くマルサが来た場合のことですが、やつらは実際の取引がどうなっているか証明しなければなりません。疑わしいとかおかしいだけでは犯罪の証明にはならないからです。ですからマルサだろうがなんだろうが、取引ルートが暴かれなければ、いくら取り調べを受けようと逃げ切れると思います。」
と説明した。

「やつらに取引を暴かれた場合はどうなる。」
龍雄がそう尋ねると、丸田は、
「その時は最初に話したようにまた刑務所です。それでも金を隠し通せれば一人数億の金が残ります。」
と答えた。

龍雄は頷いた。
「分かった。ここを出たら三人で詰めようじゃないか。」

丸田のアイデアにはモデルがあった。
税務課の主任だった頃、ある会社が消費税の不正還付を受けたとして新聞に載ったことがあり、その還付金があまりにも巨額だったことから、話題になったことがあった。

それは、実際には輸出取引などなかったにもかかわらず、高額な商品を輸出したように偽装したとされる事件だった。商品を国内で購入して海外に輸出すると購入時に支払った消費税が還付される制度を悪用し、値の張る商品を仕入れて海外に輸出したかのように偽装し、税務署から一〇億円以上の還付金を得ていた。

(税務署を手玉に取って一〇億以上手にした。ばれはしたが大した話だ。しかし税務署もこんな金額よく還付したものだ。)
丸田は事件の鍵が、「国内での高額商品の購入」と「輸出」であると理解した。
今回、岩佐から金塊のブローカーだった男が入所したと聞かされ、その事件を思い出した。

(金塊のブローカーは、日本で金を買って闇で転売するか密輸出する。金は高額だ。あの事件みたいに何とか出来んかな。免税店で売ったことにしても輸出になるんだが・・・。)

丸田は、差し入れてもらった税法の本を繰り返し読んだ。
消費税法を始めとする各税法からは、答えが出なかった。

思わぬところにヒントがあった。
改正されたばかりの税理士法である。

(税理士法33条の2と35条は使えそうだ。税理士がちゃんと見たと太鼓判押した書面を書いてくれたら調査は無しで済むかもしれない。)
(国税から信用されとる税理士がこの書面を添付してくれたら・・・)
(そうだ、あいつがいる。あいつなら打って付けだ。)

これまで税務当局は、税務調査に先立って関与税理士の意見を聴くことはなかったところ、申告納税制度の維持とともに徴税コストの削減を期待して2001年に税理士法が改正された。

税理士が顧問先の申告書を十分に審査して、その申告書が法令等に照らして適正と認められた場合には、そのことを記載した書面を作成して申告書に添付することが出来るようになった。

そしてこの書面が添付された場合、課税当局は、納税者に税務調査を通知する前にその税理士に意見を述べる機会を与えなければならないとされ、その意見聴取で税務調査の目的が達せられた場合、調査が省略されるケースもあるとされた。

税理士の立場からすれば、顧問先に関する自己評価書面の提出権と調査通知前の意見陳述権を新たに付与されることになり、相応の責任は負うものの税理士の存在意義を高めるものと受け止められた。

一方国税からすれば、この制度が健全に機能すれば、実地調査の省略ないし効率化により徴税コストの削減が見込まれるものだった。税理士法33条の2は書面添付に関する規定であり、35条は税理士による意見陳述の機会を定めた規定であった。

解説
龍雄は、丸田が提案した税金の不正還付による金もうけの話を前向きに受け止めます。
丸田のプランは、最近改正された税法を詳しく検討した上でのものでした。

・・・To be continued・・・

 

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