福岡物語

福岡物語-18

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福岡物語-18

福岡物語-18【関門海峡
門司港レトロ展望室の夜景
福岡物語(居場所を求めて)-18

翌日、岩佐が丸田とともに小倉の繁華街にある中華飯店で出所祝いをしてくれた。
早速、免税店を利用した税金還付の話になった。

「気になっとったんだが、インゴット仕入れて、そのまま免税店で売るっちゅうことは難しいんやないか。免税店で売れるのは土産品程度の貴金属やろう。」
龍雄がそう聞くと、「そのとおりです。免税店でインゴットを販売できるはずはありません。ですから、五〇グラム程度の金製品を販売したことにするつもりです。」
と丸田が答えた。

「そしたら、マルサとかがやってくる以前に、税務署が帳簿や仕入先とかを調べたら、おかしいって思われんか。」
「手は考えてます。税務署が帳簿を調べんようにさせりゃ良いんでしょう。」

「どうするんや。」
「税理士を使います。」

「税理士なんてその辺にごろごろいるやろ。そいつらに何ができるんか。」
「この頃国税のルールが変わり、税理士が自分で念入りに会社の帳簿を検査したとする書面を付けて申告をした場合、税務署は、会社に調査すると連絡を入れる前に、必ずその税理士の意見を聞かなければならなくなりました。その税理士の説明に納得すれば会社の調査はなしです。このルールを使います。そうすれば調査があるかどうか事前に分かりますし、その税理士がうまく説明してくれれば、そのまま素通りです。」

「その法律はともかく、俺達のために、そんな都合の良いことをしてくれる税理士がいるんか。」
龍雄が聞くと、丸田は、
「心あたりはあります。幾らか払わんといかんでしょうが。」
と答えた。

丸田は続けて、
「龍雄さん、お願いがあるんです。韓国の空港から福岡空港に来る旅行者のリストが欲しいんです。」と言った。
龍雄は、怪訝な顔をした。

「龍雄さんは、向こうの人達から難しいことを頼まれた結果、刑務所に入ったんですよね。」
「まぁな。」

「その向うの人達を通して空港の職員に手を回せませんか。」
「何とも言えんが。・・どういう訳だ?」

「旅行者の旅券番号と渡航日が分かる出国リストあったら、免税店で旅行客に売ったことにする伝票が作れるんです。実際の旅行者が買ったような伝票が作れれば、いざという時、国税は税理士のヒアリングだけで諦めると思うんです。」
「そうか、なんとか頼んでみる。」

「後は軍資金じゃな。」
岩佐が言った。
「忠彦と俺で用意できるのが2500万だ。龍雄さんはいくら都合つく。」

「出所したばかりやし、俺もせいぜいその位じゃ。」
「3人で5000万ですか。もう少しあるといいんですが、これで始めるしかないですね。」

丸田がそう言うと、龍雄は、
「少し時間をくれ。ちょっとあたってみる。」と言い、
「今度は俺が案内する。」
と言って、二人をかつて行きつけだったクラブに連れて行った。

一週間後、龍雄からの連絡で、岩佐と丸田は下関の龍雄の家に行った。
一緒にいた大柄な男を紹介された。

「ガキの頃から一緒の雄一だ。ブローカーしとった時は、こいつの船を使っとった。」
「今度も使うがいいかな。」

「ぜひお願いします。」
岩佐と丸田は雄一に会釈した。
雄一は「こっちこそよろしく。」と言って出て行った。

龍雄は「軍資金のあてが付いた。」と言って、二人を二階の座敷に上げた。
3日前、龍雄は釜山で崔と会っていた。崔は、麻取による摘発は内通者のチクリだったと話し、龍雄には迷惑を掛けたと詫びた。

「刑務所にまで人をよこして詫び入れてもらってます。崔さんにはこれまで世話になってるし、それで十分です。」
「これからも無理に俺と仕事をしろとは言わないが、お前は腹も座っとるし、今後も見込みがあると思っとるから、金山を行かせたんだ。龍雄よ、商売は結局信用できる人間が何人いるかだ。」

崔は、戦前から日本と韓国を頻繁に行き来しており、日本語が達者だった。
「崔さん、そこまで言ってくれるんやったら、頼みがあるんだけど。」
龍雄は、消費税の不正受還付のスキームの概要を話し、崔には、下関か門司の港で仕入金額そのままの価格で金を引き渡しできると説明した。

「資金が足りなくて困っとるんです。せいぜい3、4年の勝負なんで取引が太いほど、崔さんも俺達も儲かるんやけど。」
崔は、快く応じて、1億用意すると言ってくれた。

続けて、訪日旅行者の出国リストが欲しいと頼むと、
「手数料はかかるが、頼めんことはない。」
と言って、知人を介して対応すると請け合ってくれた。

「龍雄には苦労させたし、折角工夫したんだから、儲かると良いな。龍雄に金を貸す理由を言っておく。まず、お前は信用できる。次に、貸した金は、金か現金のどちらかになってる訳だから、目減りせん。最後に、摘発の危険だが、これは、龍雄とやらなくても同じことだ。引き取る前に摘発されたら責任は龍雄、その後は俺の責任だが、できるだけ分割して仕事してくれ。」

素直に礼を言うと、崔は、
「俺が気に入ったのは、日本から税金を取って、お前達も俺も儲けるということだ。俺は、時代の流れで日本に行ったり、韓国に戻ったりしたが、日本も韓国も俺達には辛いことばかり言いやがった。生き延びるためには、どんな手段を取っても稼ぐしかなかった。お前も身に浸みて分かってるはずだ。」
龍雄は頷いた。

「日本から金を取って儲けて、インゴットをさやなしで持ってくるんやったら気持ちよく協力してやる。ブローカーちゅうもんは、普通税金のかからん物をこっそり捌いて儲けるが、税金で儲けようちゅう話は初めて聞いた。」
崔は続けた。
「取引の量はいつも同じにしなさい。間違いのない仕事するには金額を動かしちゃいかん。いつも同じ手順で同じように取引するんじゃ。それとな、手仕舞のタイミングを忘れたらいかん。どんな仕事も潮時ちゅうもんがある。」
噛んで含めるような言い方だった。

「よく分かりました。まず3年、用立ててもらった金を分けて、気を付けてやります。」
その後龍雄は、崔や金山達と連絡の方法、引渡の場所、海保や麻取に臨検された時の対処等について、詳しく打ち合わせを行った。

龍雄は、岩佐と丸田に、崔から1億借りることが出来たと報告した。
二人は驚いた。
岩佐が利益の配分の話を切り出すと、龍雄は即座に、
「儲けは、3等分きっちりだ。」と言った。

岩佐が、
「それはいかん。軍資金の大半や取引のルートは龍ちゃんじゃ。」
「俺と忠彦で半分、龍ちゃんが半分でどうか。」
と言い、丸田も、
「是非それでお願いします。」

と言ったが、龍雄は、
「この仕事は最初から3人3等分しかない。元々丸ちゃんがおらんかったら、この仕事はなかったじゃないか。」
と言って受け付けなかった。

それでも遠慮を見せる二人に、
「気にするんやったら雄一達に色をつけてくれ。そんなら俺も嬉しいし、あんたらも気が済むだろう。」
と言い、3等分を曲げなかった。

解説
出所した龍雄は、刑務所仲間だった岩佐や丸田と、免税店を利用した税金還付を実行するための手筈を整えて行きます。龍雄は、覚醒剤の取引で貸しを作っていた韓国のブローカー崔と会い、多額の資金を調達することに成功します。

・・・To be continued・・・

 

 

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