福岡物語-3【耳納連山(車内から)】
福岡物語(居場所を求めて)-3
翌朝、仕事に取り掛かろうとしていた黒木達のところに多田隈が顔を出した。
「こんな早くどうしたんですか。土曜日はいつもゆっくりじゃないですか。」
「いかんか。」
「迷惑ですよ。年寄りは昼からでいい。」
「そう言うな。ところでお前たちはこれまで休みなしで仕事をしてきとる。たまには休まんか。」
「そんなことを言いに来たんですか。家に居ても事件が気になるだけです。」
「そりゃそうだろうな。俺に任せろ。」
「どうするんですか。」
「気晴らしに温泉に行かんか。日田の少し先に親戚がやっとる宿がある。」
「温泉ですか?」
「そうだ。少し休んで気分を切り替えんか。」
「・・・分かりました。どうやって行きます?」
「今日はワゴンで出てきた。俺が運転する。」
博多から日田に行くには、九州自動車道で熊本方面に向かい、途中、四葉のクローバーのような佐賀県の鳥栖ジャンクションで大分自動車道に乗り換える。屏風のように尾根が長く連なる耳納(みのう)連山を右手に眺めながら、大刀洗、朝倉と筑後平野を突き切るように進むと、その先は大分県との県境の夜明ダムである。
黒木は大刀洗、多田隈は朝倉の出身だった。
大刀洗の由来は、南北朝時代にこの地で大規模な合戦があり、勝利した南朝方の武将が小川で血濡れた太刀を洗ったとされる故事による。大正時代に陸軍の飛行場が作られ、太平洋戦争末期には多くの特攻隊員らを輩出するが、昭和20年3月の米軍空爆により多数の犠牲者を出した。
朝倉には、黒田藩の支藩であった秋月藩の城址がある。
明治維新後に士族が反乱を起こしその後秋月は衰退するが、城址の界隈は「秋月千軒の賑わい」と称したかつての城下町の風情が残されており、周囲の山々と調和した美しい景観を好んで訪れる観光者も多い。
福岡の男性は、派手好きで自己主張が強いとされるが、諦めが早く辛抱強さに欠けるとも言われる。しかしながら、古来より暴れ川として幾多の氾濫をもたらしてきた筑紫次郎の異名を持つ筑後川の流域で育った多田隈や黒木は、筑後人特有の粘り強さが身上だった。
解説
多田隈達は気晴らしに温泉に行くことになりました。
耳納連山(耳納山地)を眺めながら走る広々とした大分自動車道の光景は爽快です。
山梨から来た友人が「まるで甲府盆地の中を走っているようだ。」と言って感じ入っていました。
序盤の主な登場人物は、多田隈(脱税捜査班のリーダー)、黒木(脱税事件の担当者)、松尾(黒木の後輩)、伊保(黒木と松尾の後輩)です。
・・・To be continued・・・