福岡物語-1【博多の飾り山笠】
福岡物語(居場所を求めて)-1
筑紫口から出た通り沿いに小さな間口の居酒屋があった。
次郎丸というその店は、四人掛けのテーブルが幾つかと奥に小上がりがあるだけの店だったが、玄海灘の鮮魚などを手頃な値段で出しており客足が絶えることはなかった。
八月末の金曜日午後九時、街には初夏の熱気が充満していた。
銀髪の長身の男を先頭に四人のワイシャツ姿の男たちが暖簾を潜った。
多田隈は暖簾を潜るや、「生四つ」と恰幅の良い店主に声をかけ、三人の連れに向かって「あの隅にするか」とテーブルを差しながら店主に「あぶってかも」を注文した。博多名物の「あぶってかも」は、すずめ鯛の干物を炙ったもので、小魚ながら脂が乗ってビールや焼酎とよく合う。
「ゴマサバ!」と黒木が言った。
玄海灘から獲れたての真鯖を短冊に切ったものに刻んだ博多葱や煎り胡麻をあしらった胡麻鯖は、黒木の好物だった。
松尾は、鯖の塩焼きを頼み、伊保も少し迷った風だったが同じ塩焼きを注文した。程よく焦げ目の付いた脂の乗った鯖に、少し甘めの濃口醤油を垂らしたのを頬張ると蕩けるように旨かった。
ジョッキを空け、麦の水割りに移って何杯か過ごすと、甘い胡麻鯖の味と焼酎が心地良く、黒木は寛いだ気持ちになった。
壁に貼られたアグネスラムの黄ばんだポスターに目をやった。
(つぶらな瞳、小麦色の肌・・・綺麗な女やったけど、もう結構な年やろう。)
解説
物語が始まりました。
夏の終わりの居酒屋での酒盛りからのスタートです。
序盤の主な登場人物は、多田隈(脱税捜査班のリーダー)、黒木(脱税事件の担当者)、松尾(黒木の後輩)、伊保(松尾の後輩)です。
・・・To be continued・・・