横浜物語

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横浜物語-20【紅茶でひと時を
横浜物語(悪魔のロマンス)-20
「そうですか。ちなみに同業他社の収益状況等を参考にして評価するという方法があると聞きましたが。」
「おっしゃるとおり、類似業種比準方式という評価の方法があります。さらに言いますとその類似業種批准方式と純資産評価方式を組み合わせた評価方法も存在します。そして、旅行業者というくくりで言えば同業者は数多おります。国内の旅行業者、海外の旅行業者、国内と海外の両方を取り扱う旅行業者などです。」

「ミラノ旅行社の評価において、その類似業種比準方式は使えないのですか?」
「できないと思います。」

「何故ですか。」
「批准することができる業者が存在しないからです。海外旅行と言いましても、海外に向かって出発する旅行と、海外から呼び込む旅行と2つのパターンありまして、前者はアウトバウンド、後者はインバウンドと呼ばれています。ミラノ旅行社は、イタリアを中心にヨーロッパに緻密なネットワークを構築した上で、アウトバウンドの高付加価値旅行に特化した事業を行っており、そのような手法の旅行業者は他にはありません。」

「帳簿価格に基づいた純資産方式で問題はないと言い切れますか。」
「本件の場合、その方法が最も合理的でかつ十分保守的な評価方式だと思っています。」

「もう少し詳しく聞いていいですか。」
「どうぞ。」

「僕が弁護士なら、まず国税の評価通達を俎上に載せて追及します。持株割合が30パーセントを境に評価方法が大きく変わるような通達がはたして合理的なものなのか議論を喚起し、その上で30パーセント以上の納税者と30パーセントをわずかでも下回る納税者とに相当な差をつけるルールがあるなかで、本件について刑事事件として問うことが、はたして適切なのかと主張します。」
「国税庁の通達の制定趣旨やその合理性等については、この場で私が即答できるものではありません。そのような質問でしたら国税庁のしかるべき責任者に聞いて頂きたいと思います。しかし、簡単な説明なら私もできます。」

「あなたの説明を伺いたい。」
「検事もご存じのとおり、租税法を含む行政法の適用にあたっては、画一的・統一的な運用が不可欠です。租税の通達はこの点も加味して作られています。画一的な取扱いによって、納税者が損害を被るようでしたら、その通達は吟味されなければならないでしょう。しかし本件の場合、純資産方式で評価したとしても納税者の財産評価が過大に評価される懸念は全くなく、むしろ画一的な側面を持つ通達の存在の結果、実際の持ち株割合がもう少し少なかったら、現実と相当に乖離した低額の評価となってしまうところ、そうならなかっただけですから、通達の合理・不合理が争点となることは最終的にはないと思っています。」

「・・ふうん。分りました。もう少し検討してみます。」
「よろしく願いします。」

「しかし、あなたも骨がある調査官だね。それでいて国税の世界ではさほど昇進していない。」
「昇進しないのは、私の出来が悪いからです。」

「違うさ。今の時代は仕事馬鹿じゃ駄目なんだ。自分が所属する組織の成り立ちを注意深く観察して、上司・同僚に気を使い、自分を上手くアピール出来なければ昇進出来ない。少なくともあなたは、その努力をしていない。」

調査官は苦笑いした。
「そのとおりでしょうけど、そんな暇があったら仕事をします。」

検察官が言った。
「巧言令色、鮮なし仁。」
「えっ?」

「言葉は巧みでも真心が伴わない、あなたとは真逆の人達のことです。最近巧言令色の輩は少なくない。」
「なんとも申しようがありませんが。」

「僕は、昇進など気にせずひた向きに仕事に取り組むあなたが好きです。いつの日か、今の仕事を辞めたらあなたや林田さんのような方と一緒に仕事をしたいと思っています。」
「買いかぶりです。・・・ご検討よろしくお願いします。」

解説
深田調査官と検察官とのやりとりが続いています。

・・・To be continued・・・

 

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